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01 02 03 04
#
05
□□□□■
マエストロの解説
□■□□□□■
マエストロの解説
□□□□■□□□□■□□□
複雑になりすぎた 法人税をもう
一度勉強しよう
移転価格税制により、納税者企業が、国外関
連取引の価格が独立企業間価格となっていない
との理由で課税されると、その課税対象となっ
た所得は、その企業と取引の相手方である国外
関連者の双方で課税されることとなる(二重課
税務における第一人者 〝税務マエストロ 〟による税実務講座
税の状態)。このような二重課税を排除、調整
今週のマエストロ&テーマ
移転価格税制
への対応⑥
#
119
品川克己
税理士法人プライスウォ
ーターハウスクーパース
(ディレクター)
するための手段の一つが相互協議である。具体
的には、双方の税務当局が納得できる独立企業
間価格について合意を目指し協議を行うことと
なる。近年は、相互協議をさらに発展させた
「仲裁」も制度化されている。
1
移転価格税制と相互協議
(1)相互協議の意義
相互協議とは、租税条約の規定に基づき、条
約締結国の税務当局間で行う二国間協議であ
る。租税条約の規定上は、相手国において「条
約の規定に適合しない」課税を受けた場合や受
けることになる場合に、そのような課税を排除
略歴
89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国
するため、双方の税務当局による協議を求める
際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及
ことができるものである。なお相互協議で話し
び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロー
合われる内容は、移転価格課税に関するものに
スクールにて客員研究員として日米租税条約につ
いて研究。97年より00年までOECD租税委員会
限らず、広く、二重課税排除のための対応策と
に主任行政官として出向(在フランス)
し、
「 OECD
なる。ただし、租税条約に定められた制度であ
移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」
り、他国の関与も必要とする制度であることか
の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財
務省を辞職し現職。
120
い国・地域との間では相互協議をすることはで
1
次回のテーマ
#
ら、当然のことながら租税条約を締結していな
きないことに注意を要する 。
簡易課税制度
(その4)
(日米租税条約第 25 条 1 項)
一方の又は双方の締約国の措置によりこ
税理士
熊王征秀
消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化
など、消費税法の改正が続く。消費税マエス
トロが実務ポイントを解説する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
[email protected]
1
香港に所在する関連企業との国外関連取引で移転価格課
税を受けた場合、日本・中国租税条約が香港に適用されな
いことから、以前は相互協議による二重課税排除はできな
かったが、日本・香港租税条約が締結された(2010 年 11
月締結署名、2012 年 4 月発効)ことから、現在は相互協
議が可能となっている。
No.561 2014.9.8
19
【表】 (単位:件)
事業年度
平成 22
平成 23
平成 24
事前確認
移転価格課税
その他
合 計
発 生
135
14
8
157
処 理
128
27
9
125
繰 越
312
45
16
373
発 生
112
21
10
143
処 理
135
15
7
157
繰 越
289
51
19
359
発 生
131
30
6
167
処 理
129
33
8
170
繰 越
291
48
17
356
(注)1. 事務年度は 7 月 1 日から翌年 6 月 30 日までである。
2. 発生件数は、納税者からの相互協議申立て又は相手国税務当局からの相互協議の申し入れがあっ
た件数である。
3. 合意後に発生した補償調整及び修正に係る相互協議は、再協議した年度の発生件数としてカウン
トしている。
4. 処理件数は、相手国税務当局との合意、納税者による相互協議の申立ての取下げ等により」相互
協議を終了した件数である。
(出典:平成 24 事務年度の「相互協議を伴う事前確認の状況」について(国税庁))
の条約の規定に適合しない課税を受けたと
認める者又は受けることになると認める者
は、当該事案について、当該一方の又は双
方の締約国の法令に定める救済手段とは別
に、自己が居住者である締約国の権限ある
当局に対して又は当該事案が前条 1 の規定の
適用に関するものである場合には自己が国
民である締約国の権限ある当局に対して、
申立てをすることができる。当該申立ては、
この条約の規定に適合しない課税に係る当
該措置の最初の通知の日から 3 年以内に、し
なければならない。
は毎年 150 件前後であり、このうち移転価格関
連は概ね 95% に達している。特に事前確認に
関する相互協議のみで 80% 以上となっている
ように、発生した二重課税の排除のための相互
協議ではなく、二重課税が発生しないようにす
るためにも相互協議が利用されているといえる
(事前確認については次回号で解説予定)。
なお、処理事案 1 件あたりに要した平均的な
期間は 29.3 か月と 2 年を超えており、事前確認
に係る相互協議についても 29.6 か月と長期化し
ている(国税庁発表:平成 24 年度の「総合協
議を伴う事前確認の状況」について)。この長
期化の影響からか、繰越件数の総数は減少して
(2)移転価格関連の相互協議
いない。この「繰越」は、相互協議での解決が
相互協議は、移転価格税制による二重課税の
未済ということであり、したがって二重課税
排除のみならず、広く二重課税を排除するため
(及びそのリスク)が解消されていないことを
のものであるが、現実的には移転価格課税に関
表しており、この総数が減少していくことが望
連して行われるケースがほとんどである(表参
まれる。
照)
。
また、平成 25 年 6 月末での相互協議の相手国
相互協議事案の発生件数(正式申立て件数)
は、同じく国税庁発表によれば 23 か国となっ
20
No.561 2014.9.8
2
ており 、中でもアメリカの事案が最も多く、
相互協議の申立てはできない。たとえば、日米
次いでオーストラリア、イギリス、韓国、シン
租税条約では、「当該措置の最初の通知の日か
ガポールとなっている。
ら 3 年以内」とされていることから、移転価格
(3)相互協議と不服申し立てとの関係
課税に係る最初の通知(更正決定通知)の最初
日本では、移転価格課税が行われた場合、納
の日から 3 年以内に相互協議の申立てをしなけ
税者は相互協議の申立てとは別に、異議申立て
ればならない。
又は審査請求を行うことができる。異議申立て
② 申告時における別表加算の場合
又は審査請求は、更正の通知を受けた日の翌日
我が国の移転価格税制は、申告納税を前提と
から起算して 2 月以内にしなくてはならないた
しており、法令上は「独立企業間価格で行われ
め、相互協議が合意に至らずに終了してしまう
たものとみな」して法人税法等を適用(課税所
事態に備えて、あらかじめ相互協議と並行して
得を計算)することになる。したがって、実際
異議申立し又は審査請求することが一般的であ
に行われた取引価格が独立企業間価格でなく、
る。この場合、双方が併行して進展するのでは
これを独立企業間価格に置きなおした場合に課
なく、実務的には、異議申立て又は審査請求に
税所得が増加する場合には、理論上は、確定申
係る審理を中断することを希望する旨の上申書
告時に増加する所得を自主的に加算(別表四)
を提出し、相互協議を先に進めることが慣例的
することとなる 。この場合、我が国サイドで
な取扱いとなっている。後日、相互協議が合意
の加算のみでは二重課税という結果になるた
に至った場合には、異議申立て又は審査請求を
め、相手国での減算を求め、相互協議の申立て
取り下げ、また、相互協議が合意に至らなかっ
ができるかどうかが問題となる。
た場合には、異議申立て又は審査請求に係る審
この点、租税条約の規定である「締約国の措
査が改めて開始されることとなる。
置」には、更正決定のみでなく申告納税も含ま
(4)相互協議の申立て
れるものと解すことができれば、相互協議の申
① 相互協議ができる場合
立てはできることとなる。しかしながら、相手
納税者は、
移転価格税制に関し、
次の場合には
国が相互協議を受けるか、また合意に至ること
相互協議の申立てを行い、税務当局間の協議を
ができるかは全く別問題であり、その結果、こ
求めることができる
(
「相互協議の手続きについ
うした場合の二重課税の排除については相互協
3
4
て(事務運営指針)
」
、以下「相互協議指針」3)。
議による解決は難しいと考えられる。したがっ
イ)国外関連者との取引に関し、我が国又は相
て実務的には、申告時(決算時)になんなりか
手国において移転価格課税を受けた、又は受
の会計上の調整を入れることによって課税所得
けるに至ると認められる場合
を増加させる手段が用いられると考えられる。
ロ)国外関連者との取引について、二国間の事
前確認の申し出を行う場合
ただし、相手国においては、同じく会計上の調
整によって所得を減少させることとなるため、
なお、租税条約により、相互協議の申し立て
当該方法が必ずしも受け入れられるとは限らな
の期間制限がある場合には、その期間内でしか
い点に注意を要する。
2
3
4
アメリカ、カナダ、オーストラリア、韓国、中国、インド、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベルギー、チェ
コ、
デンマーク、
フランス、
ドイツ、
アイルランド、
イタリア、
ルクセンブルグ、
オランダ、
スウェーデン、
スイス、
イギリスの 23 か国。
相互協議指針においては、移転価格税制関連以外の相互協議として、PE の有無等に関する場合、租税条約に反する源泉徴収
課税に関する場合、無差別条項違反の課税の場合、二重居住者に関する場合及び相続税に関する場合が挙げられている。
事前確認における合意値を前提としない場合。
No.561 2014.9.8
21
③ 修正申告を提出する場合
申立者又はその国外関連者の主張の概要を記
納税者が、確定申告後に国外関連取引につい
載した書面並びに不服申立書又は訴状の写し
て自主的に修正申告を行う場合にも、②と同様
ニ)当該申立ての対象となる取引の当事者間の
の問題が生じる。修正申告は我が国における税
直接若しくは間接の資本関係又は実質的支配
制上の措置の一つであると解すれば、相互協議
関係を示す資料
の申立てを行うことができると考えられる。し
ホ)申立者又はその国外関連者が相手国の税務
かしながら、現在、実務上は修正申告に基づく
当局に相互協議の申立てを行っている場合に
税額についての相互協議は受け入れられていな
は、イに掲げる資料に加え、その旨を証する
5
いようである 。
書類の写し
(5)事前相談
ヘ)その他協議の参考となる資料
移転価格課税等の個別案件についての相互協
(7)納税の猶予
議は、国税庁長官官房相互協議室(以下「相互
我が国において移転価格課税が行われたこと
協議室」
)が行うこととされている(相互協議
に基づいて相互協議の申立てをする場合、申立
指針 2)
。この相互協議室は、相互協議の申立
者は、更正決定により納付すべき法人税の額及
ての前の相談(代理人を通じた匿名の相談を含
び加算税の額について納税の猶予を申請するこ
む。
)に応じることとされている(相互協議指
とができる
(措法 66 の 4 の 2 ①・相互協議指針 7)
。
針 5)
。特に、国外関連者がその所在地国で移
この場合、所轄税務署長に「納税の猶予申請
転価格に関する調査を受けているような場合に
書」を提出するとともに(相互協議指針 7(2))、
は、課税が行われた後の相互協議が円滑に行わ
納税の猶予に係る金額に相当する担保を提供し
れるよう、事前に相談しておくことが望ましい
なければならない(相互協議指針(4))。
といえる。
また、納税の猶予期間中の延滞税については
(6)申立ての手続き
免除される(措法 66 の 4 の 2 ⑦・相互協議指針
相互協議の申立ては、
「相互協議申立書」2
(13))。なお、地方税(法人道府県民税、法人
部を、国税庁相互協議室に提出することにより
事業税、法人市町村民税)についても同様の制
行う。相互協議申立書には、次の資料を添付す
度が設けられている(地方税法 55 条の 2、72 条
ることとされている(相互協議指針 6)
。
の 39 の 2、321 条の 11 の 2)。
イ)更正通知書等当該課税の事実を証する書類
(8)相互協議中の対応
相互協議は、税務当局間の協議であり、申立
の写し
ロ)当該課税に係る事実関係の詳細及び当該課
者がこれに参加することはできない。ただし、
税に対する申立者又はその国外関連者の主張
要請すれば、支障のない範囲で、相互協議室か
の概要を記載した書面(課税に至っていない
ら、協議の進捗状況について説明を受けること
場合には、課税を受けるに至ると認められる
ができる(相互協議指針 17)。
事情の詳細及び当該事情に対する申立者又は
また、協議中は、国税庁相互協議室から、協
その国外関連者の主張の概要を記載した書面)
議の実施のために必要と認められる資料の提出
ハ)申立者又はその国外関連者が当該課税につ
及びその説明を求められる場合がある(相互協
いて不服申立て又は訴訟を行っているとき
議指針 11、13)。さらに、外国語で記載された
は、不服申立て又は訴訟を行っている旨及び
資料がある場合には、相互協議申立書の添付資
5
22
根拠としては、単純に、修正申告と異議申立の関係との平仄をとったものと推察される。
No.561 2014.9.8
料の場合と同様に、日本語訳を求められる場合
互協議の終了について(通知)」により通知さ
がある。
れる(相互協議指針 20(2))。
(9)協議の合意
また、相互協議申立者は、
「 相互協議申立ての
相手国の税務当局と合意に至ると認められる
取下書」
を提出することにより、相互協議を取り
状況となった場合には、相互協議室より、正式
下げることができる(相互協議指針 21
(1)
(2)
)
。
の合意に先立ち、合意案の内容が文書で通知さ
れるとともに、当該合意内容に同意するかどう
2
仲裁制度
移転価格課税に係る相互協議が、その開始後
合意に向けた手続が相手国税務当局間と進めら
一定の期間を経過しても当局間の合意に至らな
れる。申立者が合意案に同意しない場合には、
い場合には、相互協議の申立人は、租税条約の
相互協議は合意に至ることなく終了する(相互
規定に基づき、仲裁の要請をすることができ
協議指針 20
(1)
ヘ)
。
る。現在のところ、我が国が締結した租税条約
正式に、
合意が成立すると、
申立者に、
「相互協
において仲裁が可能な国は、オランダ、香港、
議の合意について
(通知)
」
により、合意年月日及
ポルトガル、ニュージーランドのみであるが、
び合意内容が通知される(相互協議指針 19
(1)
)
。
アメリカとの改正条約(未発効)でも仲裁に関
(10)協議の終了・取下げ
する規定が定められている。
次の場合には、相手国の税務当局の同意のも
仲裁の要請は、「仲裁要請書」を国税庁相互
とに、相互協議は合意に至ることなく終了する
協議室長に提出することにより行われる(相互
(相互協議指針 20
(1)
)
。
協議指針 41)。仲裁手続きが開始されると、独
イ)相互協議開始後、相互協議の申立てに係る
立した仲裁人により構成される「仲裁委員会」
事項が、租税条約において相互協議の対象と
の決定(仲裁決定)が行われ、その決定に従っ
されているものでないことが判明した場合
た相互協議の合意が行われることになる。
ロ)相互協議の申立てが事前確認に係るもので
仲裁制度については、詳細な手続きが租税条
ある場合において、申立者が当該事前確認の
約そのものに定められている場合もあり、また
申出を取り下げた場合
その内容も租税条約ごとに異なっている。した
ハ)相互協議申立書又は添付資料その他の提出
資料に虚偽の記載等があった場合
ニ)申立者から相互協議に必要な資料の提出等
について協力が得られない場合
がって、大まかな手続きは相互協議指針に従う
こととなるが、仲裁委員会の構成、仲裁決定ま
でに要する期間などについては租税条約の定め
に従うこととなる。また、仲裁制度は、一般的
ホ)我が国又は相手国における課税後相当期間
な相互協議と異なり、最終的な結論(実質的な
が経過している等の理由から、相互協議に必
合意)を得ることができることから移転価格課
要な資料を収集することができない場合
税事案の解決がより確実なものとなる。同時
ヘ)申立者が税務当局間の合意案に同意しな
かった場合
ト)その他相互協議を継続しても適切な解決に
至ることができないと認められる場合
相互協議が終了した場合には、その旨が「相
に、相互協議の担当部局(わが国では相互協議
室)にとっても、独立した仲裁委員会ではなく
当事者でもある課税部局段階での合意、決着を
目指す機運が高まり、相互協議の効率的運用に
即すると期待されているところでもある。
No.561 2014.9.8
23
にお寄せください。
[email protected]
申立者が合意案に同意する場合には、正式な
この記事に関するご意見・お問合せは
か確認を求められる(相互協議指針 18
(1)
)
。
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