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01 01-05
# 05 マエストロの解説 □□□□■ □□□□■□□□□■□□□ □■□□□□■ 複雑になりすぎた 法人税をもう 一度勉強しよう 1 進出先における源泉徴収 日本企業の海外進出は、別の視点でとらえれ ば、「海外への投資」と考えることができる が、この海外への投資にはいろいろなパターン が考えられる。それは、外国の企業との物品の 売買のみならず、外国の株式・債券の保有・売 税務における第一人者 〝税務マエストロ 〟による税実務講座 買、外国での子会社の設立、関係会社へのロー 今週のマエストロ&テーマ 国際税務にお ける租税条約 の役割 # 05 品川克己 今週のマエストロ 海外出向、受入れ、海外の企業買収など、いろ いろな形態の投資が考えられ、そこでは必ず相 手国の税務問題が発生することとなる。そし て、この相手国での税務問題で、もっとも頻繁 に、かつ、最初に起こりうるものが源泉税(源 泉徴収)の問題である。 具体的には、たとえば、日本企業が海外に子 会社を設立(出資)して事業を始める場合、事 業資金として出資(資本金)を利用することも 日本公認会計士協会租税 調査会専門委員(国際租 税専門部会) 税理士法人プライスウォーターハウスクーパ ース (マネージング・ディレクター) あれば、別途親会社(日本企業)からローンと 略歴 また、ローンという投資に対するリターンは利 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国 際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及 いう形で資金供与することも考えられる。出資 つまり資本を持つということは、それに対する リターンとして配当が支払われることとなる。 息ということとなる。こうした、配当や利息 び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロー (利子)は、一般に「投資所得」とよばれ、そ スクールにて客員研究員として日米租税条約につ の支払地国で源泉徴収により課税されることと いて研究。97年より00年までOECD租税委員会 に主任行政官として出向(在フランス) し、 「 OECD 1 なる 。同様に、海外の企業に、その所有する 移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」 特許などの使用許諾をする場合も、これも一種 の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財 の海外投資であり、そのリターンとして使用料 務省を辞職し現職 (平成22年10月現在) 。 06 # (ロイヤルティ)が支払われるが、この使用料 (ロイヤルティ)も、通常は源泉徴収されるこ 次回のテーマ 経営戦略に応える 企業再編成税制 税理士法人アクト22代表社員 朝長英樹 経営戦略の1つとして組織再編成税制を活 用できる方法を、同税制等の創設に携わっ た著者が事例形式で解説する。 ※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。 [email protected] 18 ン、特許権など無体財産の使用許諾、従業員の No.381 2010.12.6 ととなる。こうした利子、配当、使用料(ロイ ヤルティ)に対する源泉徴収の問題は、国際税 務の最初の課題であり、そこに租税条約は大き く関係している。 1 この源泉徴収の税率は、国によってまちまちである。日 本の場合、15%(利子)または 20%(配当、使用料など) であり、米国では原則 30%とされている。 【図表1】 日米租税条約における配当所得 出資(30%) 特許使用許諾 配 当 ロイヤルティ支払 日本企業 アメリカ企業 5%で源泉徴収 (原則30%) 2 【図表2】 日米租税条約における使用料 租税条約の役割 日本企業 アメリカ企業 源泉徴収なし (原則20%) となるが、日米租税条約により 5%での源泉徴 収となるのである。 租税条約は、2 国間での課税関係についての また、たとえば日本企業がアメリカ企業の所 取り決めである。一般に、相手国の個人や企業 有する特許を日本国内で利用する場合、通常、 に対する自国での課税関係を明確にし、その効 この日本企業はアメリカ企業に対し、この特許 果として、2 国間の投資を促進する効果を生み の利用対価としてロイヤルティを支払うことと 出している。 なろう。そしてこのロイヤルティは日本からの (1)源泉税の減免 支払時に原則 20%での源泉徴収が必要となる 租税条約上の措置としては、いくつかのもの が、日米租税条約により免税となるのである 【図2】 があるが、もっとも重要なものは投資収益に対 (図表 2 参照)。 する課税の調整である。投資に対する収益とし このように、投資先での源泉税が減免される した配当や利子に対する源泉地(支払地)での 現 金 70 資 本 金 等 50 くなると期待される。これが、租税条約による 利益積立金 20 S社 ては、配当や利子がその典型例であるが、こう 利益積立金 30 / 土 地 30 課税、つまり源泉税は、投資収益の効率性の観 P社 点からはマイナスの要素とならざるを得ない 土 地 30 / 配 当 収 入 30 B/S ことにより、当然のことながら投資が行いやす 最大の恩典の一つといえる。 (2)二重課税の排除効果 土 地 :+30 (マイナス要因が少ないほうが投資しやすい) 。 S社株式 :−(帳簿価額:100) 利子、配当等の投資所得に対する源泉税率が したがって、これらに対する課税が過剰なもの 軽減されることは、結果的に二重課税の排除と とならないように 2 国間で調整し、投資効率に いう効果をもたらす。利子や配当といった投資 対するマイナス要素を排除・軽減することが、 収益であっても、それを生み出すためのコスト まさに租税条約の重要な役割となっているので ※ が必要であり、こうしたコストを勘案して収益 【図3】 S社 ある。 資本金等 15 / 土 地 30 利益積立金 15 具体的には、租税条約の相手国に利子や配当 利益積立金 :+30 B/S をネットでとらえた場合、通常、支払額(グロ 現 金 70 資 本 金 等 35 ス)に対する源泉税は過大な課税となってしま 利益積立金 35 を支払う場合、国内法に定める原則的な源泉徴 うケースが多いと考えられる。したがって、外 (*)分割前事業年度の簿価純資産価額を100、分割直前の資本金等の額を50とする。 ・S社の減少する資本金等の額 15=50×30/100(法令8①十五) 国税額控除により二重課税を調整する際に、控 ・S社の減少する利益積立金額 15=30−15(法令9①十) 収税率に替えて軽減税率が適用され、結果的に 源泉税の軽減(ゼロ税率、つまり免税となるこ P社 ともある)が図られることとなる。たとえば図 土 地 30 / 利益積立金 15 表1のように、ある日本企業がアメリカ企業へ 資本金等 15 S社株式 30 30%の出資を行う。この出資に対応する配当 は、アメリカでは原則 30%の源泉徴収の対象 2 除限度額を超過し、結果的に二重課税が排除さ れないことも起こりうるのである。源泉税率を 土 地 :+30 軽減することは、外国税額控除における控除限 S社株式 :−30(帳簿価額:70) 度額を超過しないようにする方向に働き、結果 利益積立金 :+15 2 資本金等 :−15 的に二重課税の排除に資することとなる 。 (*)前提は、上記S社の場合と同様である。 こうした観点から、日米租税条約においては金融機関等の受け取る利子が源泉税免除とされている。 ・P社の増加する資本金等の額 −15=15−(100×30/100)(法令8①六) ・P社の増加する利益積立金額 15=30−(−15)−(100×30/100)(法令9①三) ・P社が保有するS社株式の減少額 30=100×30/100(法令119の3⑪、119の8) No.381 2010.12.6 19 【図表3】 わが国の租税条約ネットワーク ⃝租税条約の主な目的……二重課税の調整、脱税及び租税回避への対応、投資・経済交流の促進 欧州地域(15) アイルランド イタリア オランダ スウェーデン 東欧・旧ソ連(18) デンマーク ノルウェー フランス ルクセンブルグ イギリス ドイツ オーストリア フィンランド スイス ベルギー スペイン アゼルバイジャン アルメニア ウクライナ ウズベキスタン チェコ キルギス グルジア スロバキア タジキスタン ベラルーシ トルクメニスタン ポーランド ハンガリー ブルガリア モルドバ ルーマニア ロシア カザフスタン 北米(2) アメリカ カナダ 東・東南アジア(9) 中近東地域(3) イスラエル エジプト トルコ (※) クウェート (2010年5月国 会承認、 現在未 発効) 南アジア(4) インドネシア タイ ベトナム 中国 韓国 フィリピン シンガポール マレーシア ブルネイ インド パキスタン バングラデシュ スリランカ アフリカ地域(2) ザンビア 南アフリカ 大洋州地域(3) オーストラリア ニュージーランド フィジー 中南米・ カリブ地域(3) ブラジル メキシコ バミューダ (参考)基本的な租税条約交渉の流れ(外務省主管) 条約交渉開始→基本合意→国会承認→ (衆・外務委員会、参・外交防衛委員会で審査) →公文の交換→発効・公布 ※署名、国会提出、 公文の交換及び公布に当たっては、外務省の閣議請議により閣議決定を行う。 (出典:財務省) また、源泉税を課すのは、その国が、所得の 源泉地であることを主張するからに他ならな 3 租税条約ネットワーク い。一つの所得に対して、二つの国が源泉地を 現在(平成 22 年 10 月現在)のところ、日本 主張すれば、源泉地課税の競合・重複が生じる 【図表1】 日米租税条約における配当所得 は 48 の租税条約を締結し、59 カ国との間で適 【図表2】 日米租税条約における使用料 (二重課税)ことは明白である。また、所得の 用がある。さらに、未発効の条約もあり、また 源泉地を主張するということは、その国では国 現状、アラブ首長国連邦との交渉も進められて 内所得としてとらえられることとなる。つまり 配 当 いるようである。 ロイヤルティ支払 国外所得としての認識ができないことであり、 日本企業 アメリカ企業 これら租税条約の締結相手国を見てみると、 日本企業 アメリカ企業 なろう。 5%で源泉徴収(原則30%) 源泉徴収なし (原則20%) な関係がある国は概ねカバーされつつある。当 出資(30%) 結果的に外国税額控除ができない可能性も高く 特許使用許諾 アフリカ諸国及び中南米を除き、日本と経済的 租税条約は、こうした源泉地の競合に対して 然のことながら、租税条約の対象は「租税」で 所得源泉ルールを設け、所得の源泉地を振り分 あり、その発生原因となる経済活動、経済交流 けることにより課税権を調整するとともに、結 がなければ、租税条約の存在そのものも必要な 果として二重課税の排除を促す役割も果たして いところである。ある程度の経済的関係がある いる。 国々との間で租税条約が締結されている現在、 20 No.381 2010.12.6 日本の租税条約ネットワークは、数量の面から となっている。たとえば、それまで使用料に対 は概ね完成していると見ることもできる。 する源泉税率を10%とするのが日本のポリシー これら日本が締結した租税条約は、基本的に であったが(OECD モデル条約ではゼロ)、日 は、 グローバルスタンダードともいえる「OECD 米租税条約において、初めて使用料を免税とし モデル条約」に準拠しつつ、条約締結当事国の たことや、同じく日米租税条約において包括的 諸事情を反映させたものとなっている。その内 な特典制限条項を導入したことは、こうした時 容からは、これまでの日本の租税条約ポリシー 代の要請を反映させたものである。 が読み取れるところであるが、また、それぞれ このように、租税条約は、締結された後も、 締結された時期の経済関係、経済情勢や世界的 経済情勢等に即して見直し、改正される必要が な国際課税についての考え方を反映させたもの ある。 この記事に関連するお問い合わせ先 この記事に関するお問い合わせは週刊「T&Amaster」編集部にお寄せください。執筆者に質問内 容をお伝えいたします。 TEL:03-5281-0020 FAX:03-5281-0030 e-mail:[email protected] ※なお、内容によっては回答いたしかねる場合がありますので、あらかじめご了承ください。 相互協議を伴う事前確認事案は過去最多の 149 件 編集部 国税庁が 11 月 24 日に公表した平成 21 事務年度(平成 21 年 7 月~平成 22 年 6 月)にお ける「相互協議を伴う事前確認の状況」によれば、相互協議事案は過去最多の 183 件発生 し、このうち事前確認事案も過去最多の 149 件となったことが明らかとなった。 処理件数は 154 件。処理に係る期間は平均で 1 件当たり 24.7 か月となっている。相互協 議を伴う事前確認事案の処理件数は 105 件(平成 18 事務年度 84 件、平成 19 事務年度 82 件、平成 20 事務年度 91 件)と増加した。 処理事案を業種別にみると、製造業 57 件、卸売・小売業 29 件、その他(金融機関等) 19 件。対象取引別では、棚卸取引 79 件、役務提供取引 45 件、無形資産取引 39 件となって いる。 処理事案の移転価格算定方法では、取引単位営業利益法(TNMM)が 61 件と全体の 55%を占め、そのほかの利益分割法(18 件)、独立価格比準法(8 件)、原価基準法(7 件) 、再販売価格基準法(2 件)を大きく上回っている。 No.381 2010.12.6 21