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     富 山県泊地 域 の新 第 三系 の層 序...
NOM l3号(1985年5月)1∼12
富 山県泊地 域 の新 第 三系 の層 序 と年 代
Stratigaphy
and
geochronology
of
Toyama Prefecture,
the
Neogene
in
Central
Japan
the
Tomari
area,
伊
藤
Yasuto
康
人*
ITOH
Ⅰ は じめ に
近 年 の 古 地 磁 気 学 的 研 究(鳥 居,1984;林 田 ・鳥
居,1984)に よ り,日 本 海 の 拡 大 と それ に 伴 う西 日
本 の 時 計 回 りの 回 転 運 動 が 中 期 中 新 世 に 生 じた こ
とが 明 ら か に な って きた 。 従 っ て,日 本 海 の 形 成
・発 達 史 を 考 え る上 で ,日 本 海 側 に 分 布 す る 新 第
三 系 の 層 序 と年 代 に 関 す る研 究 の 精 度 向 上 を 図 る
こ とが 必 要 で あ る 。
北 陸 地 域 は 新 第 三 系 が 広 く 分布 して お り,上 記
の 研 究 の た め に は 重 要 な 地 域 の ひ とつ で あ る 。 当
地 域 の 新 第 三 系 は グ リー ン タ フ及 び そ れ を 覆 う海
成 層 よ りな り,微 化 石 や 放 射 年 代 の 手 法 を用 い た
研究が可 能で あ る。
富 山 県 泊 地 域 は,北 陸 地 域 に 分 布 す る新 第 三 系
の 東 端 に あ た る(第1図) 。 本 地 域 で 層 序 学 的 研 究
を行 うこ とは,北 陸 積 成 盆 地 の 縁 辺 部 の 状 態 を知
り,発 達 過 程 を 明 ら か に す る 上 で 重 要 で あ る 。従
来,本 地 域 の 層 序 に 関 して は 藤 井(1959)に よ る岩
相 層 序 学 的 研 究 が あ る 。 ま た,生 層 序 に つ い て は,
千 地(1961)が 底 棲 有 孔 つ か の 新 知 見 を 得
た ので こ こに報告 す る。
第1図 北陸地 域 にお け る新 第三 系の分 布 と調査 地域(枠 内)
*京都 大学理 学 部地 質学 鉱物学 教室
Ⅱ 地 質 概 説
泊 地 域 の 地 質 は.大 き く先 新 第 三 系.新 第 三 系.
第 四 系 の3つ の 単 位 に 分 け ら れ る 。 これ ら は.北
部 で は,ほ ぼ 南 北 方 向 の 山 列 を形 成 す る 、南 部 で
は,第 四 系 の 形 成 す る高 度250∼300mの
準 平坦
面 が 顕 著 で あ り,基 盤 岩 類 は.高 度500∼1000m
の 山 地 を形 成 して い る 。
先 新 第 三 系 と して は,泊 地 域 南 部 に 分 布 す る飛
騨 変 成 岩 類,北 部 に 分 布 す る ジ ュ ラ系 の 来 馬 層 群
と,ジ ュ ラ ∼ 白 亜 系 の 手 取 層 群,及 び,そ れら を
不 整 合 に 覆 っ て,本 地 域 全 体 に 南 北 方 向 に 分 布 し
て い る,流 紋 岩 質火 砕 岩 ・同 溶 岩 及 び 少 量 の 安 山
岩 よ りな る古 第 三 系 の 太 美 山 層 群 が あ る 。
新 第 三 系 は,朝 日町 東 部 の 丘 陵 に 分 布 し,先 新
第 三 系 と 断 層 で 接 す る 。 こ れ は 岩 相 に よ り8累 層
に 区分 され る。そ の詳 細 につ いては後 述す る 。
第 四 系 は 新 第 三 系 を不 整 合 に 覆 って お り,ゆ る
く 傾 斜 す る棚 山 礫 層 が 本 地 域 南 部 の 丘 陵 に,山 崎
礫 層 が 丘 陵 西 端 に 沿 っ て 南 北 方 向 に 分 布 す る 。平
野 部 に は,黒 部 川 の 扇 状 地 堆 積 物 が 広 く分 布 して
いる 。
調
Ⅲ査 地 域 の 新 第 三 系 の 層 序
今 回 調 査 を 行 っ た の は,朝 日 町 東 方 の,舟 川 以
北 の 丘 陵 地 域 で あ る 。 この 地 域 の 新 第 三 系 は 下 位
よ り,雁 蔵 ・羽 入 ・笹 川 ・最 禅 ・山 合 川 ・宮 崎 ・
高 畠 ・横 尾 の8累 層 に 区 分 され る(第1表)
。地
質 図 及 び 断 面 図 を 第2図 に 示 す 。 ま た 従来 た て ら
れ て い た 藤 井(1959) に よ る 層 序 との 比 較 を 第2表
に示す 。
第1表 調 査地 域 の層序 区 分
カンソウ
1.雁 蔵 累 層(命 名:藤 井,1959)
雁 蔵 集 落 付 近 や 境 鉱 泉 東 方 ・蛭 谷 集 落 な どで 見
られ る安 山 岩 質 凝 灰 角 礫 岩 に 対 して 本 層 名 を 使 用
す る.本 層 は,藤 井(1959) で は 本 報 文 で 羽 入 累 層
と した もの と一 括 して 雁 蔵 累 層 と して 扱 わ れ て い
る が,層 序 ・岩 相 上 か ら こ の2層 は 明 瞭 に 区 分 で
き るの で 独立 して 記 載 す る 。
模 式 地 は 下 新 川 郡 朝 日町 笹 川 両 岸 。本 地 域 全 体
にわた って南 北方 向 に分布 す る。層厚 は下 部が未
調 査 の た め 不 明 で あ る が,少 な く と も200m以 上
で あ る 。 主 と して 安 山 岩 溶 岩 よ りな り,蛭 谷 集 落
東 方 に お い て は,直 径10∼30cmの 安 山 岩 角 礫 を含
む 安 山岩 質 凝 灰 角 礫 岩 が 見 られ る 。
第2表
従 来 の 層 序 と今 回 た て られ た 層 序 の 比 較
第2図 調 査 地 域 の 地 質 図 及 び 断 面 図
A:山 崎 礫 層 B:棚 山 礫 層 C:横
尾 累 層(1-砂 質 シル ト岩;2-凝 灰 質 礫 岩)
D:高
畠累 層(1-砂 岩;2-凝 灰 角 礫 岩)E:宮
崎 累 層 F:山 合 川 累 層 G:最
H:笹 川 累 層(1-シ ル ト岩;2-凝 灰 角 礫 岩) I:羽
入 累 層 J:雁 蔵 累 層
a:断 層 b:走 向 傾 斜
禅累 層
ハニ ュウ
2.羽 入 累 層(命 名:新 称)
羽 入 集 落 南 方 で 見 られ る凝 灰 岩 と,田 中 集 落 付
近 で 見 られ る火 山 礫 凝 灰 岩 に つ い て 本 層 名 を 使 用
す る。 本 層 は 藤 井(1959)の 雁 蔵 累 層 の 上 部 に 相 当
す る。
模 式 地 は.朝 日町 羽 入 か ら 棚 山 に い た る林 道 沿
い.小 川 以 北 で は 奥 石 谷 以 北 に 分 布 す る.層 厚 は
30∼50m.小
川 以 北 で は 。主 に 直 径1㎝ 前 後 の 流
紋 岩 質 火 山 岩 礫 を 多 く含 み,緑 灰 色 ∼ 緑 白色 の 細
粒 凝 灰 岩 を 基 質 とす る火 山 礫 凝 灰 岩 で あ り,ま れ
に 灰 色 シル トを 挟 在 す る.小 川 以 南 で は,主 と し
て 粗 粒 砂 な い し極 粗 粒 砂 程 度 の 粒 度 を持 つ 流 紋 岩
質 凝 灰 岩 で あ り,し ば しば 直 径1㎝ 前 後 の 火 山 岩
礫 を含 み,直 径10∼50cmで 不 規 則 な 形 を した シル
トの ブ ロ ッ ク も見 られ る 。基 底 部 の5∼10mの
範
囲 に は,下 位 の 雁 蔵 累 層 の 安 山 岩 の 巨 礫 を含 み,
そ の 直 径 は2mに
達 す る。 下 位 の 雁 蔵 累 層 と は,
小 川 以 北 で は 断 層 で 接 し,以 南 で は 不 整 合 関 係 で
接 す る。
3.笹 川 累 層(命 名:藤 井,1959)
本 層 の 定 義 は 藤 井(1959) に従 う 。模 式 地 は 朝 日
町笹 川河 床 お よび河 岸 。大谷川 か ら棚山 まで南 北
方 向 に 分 布 す る 。層 厚 は300∼430mで
あ り,北
部 ほ ど 厚 く な る 傾 向 が あ る 。主 と して 。 灰 色 ∼ 暗
灰 色 の シ ル ト岩 よ りな る が,水 平 方 向 に 岩 質 変 化
が 見 ちれ る 。本 地 域 の 北 部( 笹 川 付 近) で は.硬
質 の へ き 開 性 を 有 す る シ ル ト岩 が 主 部 を 占め,し
ば しば 石 灰 質 ノ ジ ュ ー ル を含 む 。 笹 川 付 近 で は,
厚 さ60∼100mの
流 紋岩 質凝灰 角礫岩 お よび凝 灰
暑 が 見 られ るが,南 方 に 向 か っ て 薄 くな り,四 倉
谷 南 部 で 消 滅 す る。 そ れ に 対 し南 部(棚 山 付 近)
で は,主 と して 少 量 の 炭 質 物 を 含 む 塊 状 シ ル ト岩
よ りな る 。 本 累 層 か らは,有 孔 虫 な どの 微 化 石 が
産 出 す る の み で,大 型 化 石 は ま だ 発 見 され て い な
い。 下 位 の 羽 入 累 層 とは,小 川 以 北 で は 断 層 で 接
し,以 南 で は 整 合 関 係 に あ る。
サ セン
4.最 禅 累 層(命 名:藤 井,1959)
宇 津 谷 川 や 山合川 で 見 られ る 砂 質 シ ル ト岩 に つ
い て 本 層 名 を使 用 す る 。本 層 は,藤 井(1959)で は
山 合 川 累 層 と した もの と一 括 して 最 禅 シ ル ト岩 層
と して 扱 わ れ て い るが,岩 相 上 こ の2層 は 区 別 で
き るの で,最 禅 累 層 と して 再 定 義 す る 、
模 式 地 は 朝 日町 山 合 川 河 中 。本 地 域 全 体 に わ た
っ て,南 北 方 向 に 分 布 す る 。 層 厚 は200∼250m
で あ る 。 全 体 に,淘 汰 の 良 い 塊 状 砂 質 シル ト岩 で
あ り,炭 質 物 片 や パ ミス を含 む 。 また,直 径10∼
30cmの 石 灰 質 ノ ジ ュー ル が 多 く存 在 す る 。 ノ ジ ュ
ー ル は 本 累 層 の 中 部付近 に 多 く見 られ る 傾 向 が あ
る.本 累 層 の 最 上 部 に は,太さ10cm前
後 のsand
が 密 集 して 見 られ る こ とが あ る 。化 石 は,貝
pipe
や ウ ニ な どの 大 型 海 生 動 物 化 石 を 散 在 的 に 含 む ほ
か.有 孔 虫 化 石 な どが 比 較 的 よ く見 られ る。 本 累
層 及 び 山 合 川 累 層 よ り産 出 した 大 型 化 石 の リ ス ト
を以 下に示 す 。下 位の笹 川累 層 とは整合 関係 に あ
る。
SAZEN FORMATION
Acila
sp.
Brissopsis
makiyamai
SANGOGAWA
FORMATION
Saccella saikaiensis
Polinices
sp.
Cerithidea
sp.
Li racass is japonica
Carcharhinus sp.
サンコウカワ
5.山 合 川 累 層(命 名:新 称)
城 山 東 方 の 自然 遊 歩 道 や 山 合 川 で 見 られ る 細 粒
砂 岩 や シ ル ト岩 を 本 層 とす る。 模 式 地 は 朝 日町 山
合 川 両 岸,本 地 域 全 体 に わ た っ て,南 北 方 向 に 分
布 す る。 層 厚 は180∼300mで
あ り,北 ほ ど厚 く
な る 傾 向 が あ る 。 山 合 川 付近 で は 本 累 層 の 下 部 は,
泥 質 成 分 が 多 い こ と を 特 徴 とす る 塊 状 で 細 粒 ∼ 中
粒 の 砂 岩 で あ る。 パ ミス,炭 質 物 片 や 貝 殻 破 片 を
少 量 含 み,淘 汰 は 比 較 的 良 い。 風 化 した 露 頭 で は,
表 面 に 黄 自色 の 不 規 則 な 模 様 が 見 られ る 。上 方 細
粒 化 し,上 部 で は 少 量 の パ ミス 及 び 貝 殼 破 片 を含
む 塊 状 シ ル ト質 砂 岩 に な る。 笹 川 北 方 で は,本 累
層 下 部 は,泥 質 成 分 に 富 む 細 粒 ∼ 中 粒 砂 岩 で あ り,
炭 質 物 を 多 量 に 含 む 。上 方 細 粒 化 し,上 部 は 塊 状
砂 質 シル ト岩 とな る 。本 累 層 か ら は,サ メ の 歯 や
貝 化 石 が 産 出 した が,微 化 石 は 保 存 の 非 常 に悪 い
有 孔 虫 及 び 珪 藻 が 僅 か に 産 す るの み で あ った。 下
位 の 最 禅 累 層 との 関 係 は 整 合 で あ る。
6.宮 崎 累 層( 命 名:藤 井.1959)
宮 崎 や 城 山 に 分 布 す る 安 山岩 溶 岩 お よ び 池 ノ原
付 近 で 見 られ る凝 灰 角 礫 岩 を本 層 とす る 。模 式 地
は 朝 日町 宮 崎 の 鹿 島 神 社 裏 の 露 頭。 本 累 層 は 藤 井
959)に よ る と 小川 以 北 に の み 分 布 す る と され て
(1
い た が,今 回 の 調 査 に よ り,泊 地 域 全 体 に わ た っ
て 有 効 な 鍵 層 と して 追 跡 で き る こ とが わ か っ た。
層 厚 は南 方 に 向 か っ て 急 速 に薄 く な り,最 北 端 で
450m前 後 で あ る が 棚 山 付近 で は25∼30mに
な る。
主 と して,直 径10∼40㎝ の 安 山 岩 角 礫 を 含 み 凝 灰
質 粗 粒 砂 岩 を基 質 とす る安 山 岩 質 角 礫 岩 よ りな り,
宮 崎 集 落 南 方 や 城 山 で は,板 状 節 理 を有 す る 普 通
輝 石 安 山 岩 溶 岩 で あ る。 下 位 の 山 合 川 累 層 と は 整
合 関係 に あ る。
タカハタケ
7.高 畠累 層(命 名:藤 井,1959)
高 畠集 落 東 方 で 見 られ る 砂 岩 ・角 礫 岩 と山 崎 集
落 東 方 に 分布 す る砂 岩 ・礫 岩 を 本 層 とす る 本 層
は 藤 井(1959) の 高 畠 砂 岩 層 の 一 部 で あ る。 藤 井
(1959)は 山合 川 で 見 られ る 砂 岩 及 び 砂 質 シ ル ト岩
を 高 畠 砂 岩 層 と して 扱 っ て い る が,層 序 ・岩 相 上
か らは,最 禅 累 層 及 び 山 合 川 累 層 と して 扱 うべ き
であ る 。
模 式 地 は 朝 日 町 高 畠 か ら池 ノ 原 に 至 る 切 割。 本
地 域 全 体 に わ た って 南 北 方 向 に 分布 す る。 層 厚 は
260∼360m。
主 と して 塊 状 細 粒 砂 岩 よ りな るが,
水 平 及 び 垂 直 方 向 に 岩 質 変 化が 見 られ る。 本 地 域
北 部( 小 川 以 北) に お い て は,下 部 は 主 に,少 量
の パ ミス と 炭 質 物 片 を 含 む 塊 状 細 粒 砂 岩 で あ る。
淘 汰 は 比 較 的 良 い。 上 方 細 粒 化 して,シ ル ト質 砂
岩 に 漸 移 す る 。 細 粒 砂 岩 と シル ト質 砂 岩 の 境 界 付
近 に,直 径5∼30cmの
安 山 岩 角 礫 を含 む。 厚 さ 約
30mの 凝 灰 角 礫 岩 層 が あ る。 シ ル ト質 砂 岩 の 上 位
で は 上 方 粗 粒 化 の 傾 向 を示 し,最 上 部 で は,海 緑
石を多量に含 み泥質 成分 が多 く淘汰 の悪 い粗粒 砂
岩 に な る 。小 川 以 南 で は,最 下 部 に 厚 さ20m前 後
で5∼20cmの 安 山 岩 円 礫 を 含 む 礫 岩 層 が 発 達 す る。
そ の上 位 は,主 と して 淘 汰 が 良 く塊 状 の シ ル ト質
砂 岩 で あ る 。本 累 層 か らは 大 型 化 石 は 産 出 せ ず,
珪 藻 を 少 量 含 ん で い る 。 下 位 の 宮 崎 累 層 とは 整 合
関係 で あ る 。
8.横 尾 累 層(命 名:藤 井,1959)
本 層 の 定 義 は 藤 井(1959) に 従 う。 模 式 地 は,朝
日町 横 尾 の 熊 野 神 社 西 側 の 崖。 小 川 以 北 に か ぎ り,
北 方 向 に 分 布 す る。 層 厚 は20m前 後 。 最 下 部 は
南
厚 さ約3mの
礫 岩 よ りな り,10㎝ 前 後 の 直 径 を持
つ 安 山 岩 及 び 同 質 凝 灰 角 礫 岩 の 円 礫 を含 む 。 基 質
は,粗 粒 凝 灰 質 砂 岩 で あ る 。 そ の 上 位 に 厚 さ 約4
mの 安 山 岩 質 凝 灰 角 礫 岩 が 重 な る。 こ れ ら の 礫 岩
類 の 上 位 に,厚 さ約4mの
黄 灰色 凝灰 質砂岩 が重
な る 。 これ は 中 粒 砂 岩 か ら シル ト質 砂 岩 へ と上 方
細 粒 化 し,上 位 の 塊 状 砂 質 シル ト岩 へ 漸 移 す る。
本 累 層 か らは,貝 化 石 が 多 く産 出 す る ほ か,少 量
の 珪 藻 を産 す る 。下 位 の 高 畠 累 層 と は,不 整 合 関
係 で あ る 。 そ の 根 拠 と して は,次 の3点 が あ げ ら
れ る。
a)本
(
累 層 の 最 下 部 に,下 位 の 宮 崎 累 層 や 高 畠
累 層 の 凝 灰 角 礫 岩 よ り供給 され た と思 わ れ る礫 を
含む礫岩 が存在 す る 。
(b)高
畠 累 層 最 上 部 の,海 緑 石 を 含 む 粗 粒 砂 岩
か ら,本 累 層 最 下 部 の 凝 灰 質 礫 岩 へ と岩 相 が 急 激
に変 化 す る 。
(c)両
累 層 に 含 ま れ る 化 石 の 示 す 年 代 が,明 ら
か に異 な って い る 。 な お,こ の 点 に つ い て は,後
に述 べ る 。
(1961)は,泊 地 域 を含 む 富 山 盆 地 の 新 第 三 系 全 体
に わ た って,主 と して 底 棲 有 孔 虫 に よ る 生 層 序 学
的 研 究 を行 い,4つ
のzoneを
設 定 し他 の 地 域 と
の 対 比 を試 み た。 しか し,浮 遊 性 微 化 石 に つ い て
の 研 究 例 は これ まで に な い 。
2.微 化 石 に よ る 研 究
a.浮 遊 性 有 孔 虫
調 査 地 域 内 に お い て,125地 点 で 試 料 を採 取 し
た 。資 料 の 処 理 は ナ フサ 法 で 行 い,分 散 剤 と して
ヘ キ サ メ タ リン 酸 ナ ト リウ ム を 使 用 した。 同 定 可
能 な 有 孔 虫 の 産 出 を 見 た の は,7地
点 で あ り(第
3図),層
準 と して は 笹 川 累 層 中 部 か ら最 禅 累 層
最 上 部 に あ た る(第4図)。
こ れ ら か ら,6属22
種 が 認 め ちれ た(第3表)。
地 質構
Ⅳ 造
泊 地 域 の 新 第 三 系 堆 積 物 は,全 体 に 西 傾 斜 の 単
斜 構 造 を 有 して い る.走 向 は.北 部 でN30°E前
後,中 部 でNS∼N20°E,南
部 で50°
∼N40°E
を示 す.傾 斜 は 。笹 川 付 近 で50° ∼70°,小 川 以
で は30° ∼40°で あ り,南 ほ ど 傾斜 が 緩 くな 南
る
傾 向 が あ る 。羽 入 累 層 の 火 山 礫 凝 灰 岩 は,小 川 以
で は 約40°西 に 傾 斜 して お り上 位 の 笹 川 累 層 の南
シ ル ト岩 と調 和 的 な 構 造 を 持 つ が,笹 川 付 近 で は
上 下 を断 層 で 切 られ て お り,内 部 は 非 常 に 乱 され
て い る 。笹 川 北 方 の 林 道 で は 向 斜 と背 斜 の 繰 り返
しが 観 察 さ れ た。 断 層 の 近 傍 数mは 破 砕 され て 粘
土 化 して い る 。露 頭 状 態 が 悪 い た め 詳 細 は 不 明 で
あ る 。上 記 の 断 層 はN30°Eく
らい の 走 向 を 持 つ
が,本 地 域 に は 全 般 にNE-SW及
びNW-SE方
向
の 断 層 が 多 く,リ ニ ア メ ン ト と して 観 察 され る。
年代
Ⅴ 第3図
1.従 来 の 研 究
泊 地 域 の 化 石 に 関 す る 研 究 と して は 市 村(1935)
の報 告 が あ る 。市 村 は,新 第 三 系 最 上 部 か ら,
Barbatia symmetrica,Homalopoma,amussitatum
な ど36種 の 軟 体 動 物 化 石 を 得 て お り,そ れ ら と大
桑 フ ォー ナ との 類 縁 関 係 を指 摘 した。 ま た,千 地
微 化 石 産 出 地 点,フ ィ ッ シ ョ ン ・トラ ッ
ク年代測 定試 料採 取地点 及 び柱 状図ル ー
ト位 置 図
PF:浮 遊 性 有 孔 虫 田:珪 藻FT:フ
ィ
ッシ ョ ン ・ トラ ッ ク 年 代
この図 は国 土地理 院発 行の 五万 分の一 地
形 図「 泊 」を 使 用 した もの で あ る。
第4図 地質 柱状 図
A:横尾累層 B高畠累層 C:宮
PF:浮
FT:フ
崎 累 層 D:山
合 川 累 層 E:最
遊 性 有 孔 虫 化 石 産 出 層 準 DM:珪 藻 化 石 産 出 層 準
ィ ッ シ ョ ン ・ トラ ッ ク 年 代測 定 層 準
禅 累 層 F:笹
川 累 層 G:羽入累層
第3表
浮 遊性有 孔 虫産 出数 と産 出種 の生 存期 間
b.珪 藻
調 査 地 域 内 に お い て,40地 点 で 資 料 を 採 取 した 。
過 酸 化 水 素 水 及 び ピ ロ リ ン酸 ナ ト リウ ム を 用 い て
泥 の 分 散 及 び 除 去 を 行 っ た の ち,プ ル ー ラ ック ス
で 封 入 して プ レ パ ラ ー トを 作 成 し,観 察 を 行 っ た 。
そ の 結 果,同 定 可 能 な 珪 藻 の 産 出 を 見 た の は5地
点 で あ り(第3図),層
準 と して は,山 合 川 累 層
最 上 部 か ら横 尾 累 層 最 下 部 に あ た る(第4図)。
産 出 した 珪 藻 の リス トを,第4表
に示 す 。 これ ら
の う ち,時 代 決 定 に有 効 な 種 を 見 出 せ た の は,高
畠 累 層 最 上 部 の1地 点(DM-03)の み で あ る 。
c.対
比 と年 代
笹 川 累 層 中 部(PF-02)か
ら は.Gna.bulloides
及 びPro.transitoriaが
産 出 した 。 池 田(1982)
に よ る とGna.bulloidesは
能 登半 島北 東部 では
BLOW(1969)のzone
N.8層
準 よ り出 現 す る と さ
れ て い る が,今
回 は 千 地 ・紺 田(1978)に
従 いN.9
下 部 よ り出現 した とす る 。
こ れ とPro.transitoriaの
生 存 期 間 よ り上 記 の
層 準 がN.9下
部 に相 当す る こ とが わ か る 。
笹 川 累 層 上 部(PF-04)か
ら はGrt.praescitula
が 産 出 して お り,N.9に
05,PF-06,PF-07)か
相 当 す る 。 最 禅 累 層(PFら は.Grt.birnageae,
.transitoriaが
Grt.praescitula,Pro 産 出 し
な い 。 こ の こ と か ら,N.10に
る 。
か か る可 能 性 も あ
高 畠 累 層 最 上 部(DM-03)か
ら は.Denticulopsis
praedimorphaが
産 出 し た 。 こ れ は,BARRON(1980)
の 分 帯 に 従 う と,D.hustedtii-D.lauta
zone
のbsub zoneに
第4表
珪 藻化 石産 出表
あ た り,ほ
ぼ13.0∼12.2Maと
な る。
3.フ
ィ ッシ ョ ン ・ トラ ッ ク 年 代
泊 地 域 の 新 第 三 紀 層 か ら,5地
点 で試料 の採 取
を行 った 。 こ れ らの うち,十 分 な 量 の ジ ル コ ン を
含 み,年 代 を 算 出 で き た の は,1地
点 のみ で あ っ
た(第3図)。
これ は,層 準 と して は 笹 川 累 層 下
部 に あ た る(第4図)
。結 晶 外 部 面 を 用 い た
re-etch法(西
村,1981)に よ って 求 め た。 個 々の
ジル コ ン粒 の 年 代 の ヒ ス トグ ラ ム を,第5図
に示
す 。 こ の 結 果,個 々の 年 代 は,明 瞭 な 単 一 の ピ ー
ク を 形 成 せ ず,か な り広 い 範 囲 に ば らつ きが み ら
れ る 。 こ れ を,下 位 の 太 美 山 層 群 の 流 紋 岩 な どか
ち の,異 質 ジ ル コ ンの 混 入 の 影 響 と解 釈 し,仮 に
24Maよ り古 い ジル コ ン と して 除 外 す る と,残 りの
ジ ル コ ン粒 の 平 均 年 代 は17.5±2.1Ma(誤
差は 標準
偏 差)と な り,微 化 石 の 示 す デ ー タ と大 き く矛 盾
は しな い 。
Ⅵ 考 察
八 尾 地 域 の 黒 瀬 谷 累 層 最 上 部 の 山 田 中凝 灰 岩 層
に 相 当 す る 凝 灰 岩 層 は 北 陸 全 体 で 広 く追 跡 され,
ほ ぼN.8とN.9の
境 界 に あ た る 。 しか し,本 地 域
で は,浮 遊 性 有 孔 虫 よ り笹 川 累 層 中 部 がN.9下 部
に あ た る こ とが わ か った が,そ れ よ り下 位 に 前 記
の よ うな 凝 灰 岩 層 は 見 られ な い 。 ま た 八 尾 地 域 の
.8層 準 か ら産 出 す るVicaryaな
ど の 暖 海 性 貝N
化 石 の 産 出 報 告 もな い 。 こ の こ とか ら,本 地 域 に
はN.8に 属 す る 堆 積 物 が 存 在 しな い 可 能 性 も あ る 。
今 回 得ら れ た 珪 藻 化 石 デ ー タ よ り,高 畠 累 層 最
上 部 がD.hu.-D.la.zoneのb
subzoneに
属 し.13.0∼12.2Maに
あた るこ とがわ か った 。こ
れ に対 し,横 尾 累 層 の 砂 質 シ ル ト岩 か らは,市 村
(1935)が 多 数 の 貝 化 石 を 得 て お り,大 桑 フ ォー ナ
との 類 縁 関 係 が 指 摘 され て い る 。 こ の こ とか ら,
横 尾 累 層 を 鮮 新 一更 新 統 と考 え る と,高 畠 累 層 と
横 尾 累 層 との 間 に 不 整 合 の 存 在 が 予 想 さ れ る(第
6図)。
第5図
第6図
調 査地 域 の新第 三 系の総 合柱 状図
フ ィシ ョ ン ・ トラ ッ ク年 代 測 定 法 に よ る
ジル コ ン 粒 の 年 代 の ヒ ス トグ ラ ム
富 山 県新 第 三 系 の 模 式 地 で あ る,八 尾 地 域 と の
対 比 に 関 して は,従 来,底 棲 有 孔 虫 群 集 に よ り,
笹 川 累 層 が 黒 瀬 谷 累 層 に,最 禅 累 層 及 び 山合 川 累
層 が東 別所 累 層 に,宮 崎 累 層 ・高 畠 累 層 ・横 尾 累
層 が音 川 累 層 に,そ れ ぞれ 対 比 され て きた(千 地,
961)。 しか し,今 回 得 られ た 浮 遊 性 有 孔 虫 の デ
1
ー タに よ る と ,笹 川 累 層 中 ・上 部 はN.9で
ある
か ら,東 別 所 累 層 に 対 比 さ れ る こ と に な る。 ま た,
今 回 の 珪 藻 の デ ー タ に よ り高 畠累 層 最 上 部 が
BARRON(1980)の 分 帯 でD.hu.-D.la.zone
のb subzoneに 属 し,ほ ぼ13.0∼12.2Maで
ある
の に 対 し,早 川(1983)に よ る と,音 川 累 層 下 部 の
フ ィッ シ ョン ・トラ ッ ク 年 代 は,12.3Maで
あ る。
この こ とか ら,本 地 域 に は 音 川 累 層 相 当 層 は,ほ
とん ど存 在 しな い と考 え られ る 。以 上 を ま とめ て,
第7図 に 示 す 。
最 後 に 泊 地 域 の 地 史 につ い て 述 べ る 。本 地 域 で
は,新 第 三 紀 に は い って 雁 蔵 累 層 の 安 山 岩 及 び 安
山 岩 質 凝 灰 角 礫 岩 が 形 成 され た。 こ れ は 八 尾 地 域
の 岩 稲 累 層 と 岩 質 的 に よ く似 て お り,一 連 の 火 成
活 動 の 産 物 の 可 能 性 が あ る 。 そ の 後,本 地 域 は い
第7図
ったん陸 化 して削 薄 を うけ た 。続 いて羽入 累層の
凝 灰岩類 を形 成 した酸性 火成 活動 が起 こ り,海 扇
層 の堆積 が 始 まった 。初 期 は,本 地域 全体 にわた
って シル ト岩 が堆 積 し,一 時北 部で流 紋岩 質凝灰
角 礫岩 をつ くる火成活 動が あ った。や が て全体的
に粗粒化 し砂質 シル ト岩や 砂岩 が堆 積 した。 これ
らの海 成層 は大部 分がN.9以 降 に堆積 した もので
あ り,同 時期 に八尾 地 域で堆 積 した東 別所 累層と
類 似 した岩質 を示 す 。その 後,泊 地域 で は大規模
な火成 活動 がお こ り,安 山岩溶岩 や 凝灰角 礫岩が
全 域 を覆 った。 これは 現在 の分 布か ら見 て,本地
域 北方 に供 給源 が あった と思わ れ る 。この活動が
終 わ ったの ち再び 海成 層が 堆積 した が,粗 粒化の
傾向 は更 に進み,水 平 方 向に も岩相 変 化が見 られ
る よ うにな った 。そ の後,泊 地 域で は後期 中新世
を通 じて無 堆積 あ るいは削 薄 を受 け るよ うな環境
が継続 した 。 これ は 同時期 に音 川累 層が 堆積 した
八尾地 域 と対照 的で あ る。泊地 域で は鮮 新世 には
い って貝化 石 を含 む砂 質 シル ト岩 が堆積 したのち,
傾動 を伴 った隆 起が 生 じて現在 見 られ る よ うな丘
陵地帯 とな った 。
八 尾 地 域 と の対比A:年
B:浮
代(TSUCHI
et al.,1981に
よ る)
遊 件 有 孔 虫 化 石 帯(BLOW, 1969に
よ る)
Ⅶ 謝 辞
今 回 の 研 究 を 行 う に あ た り.当 教 室 の 亀 井 節 夫
教 授,石 田 志 朗 助 教 授,西 村 進 助 教 授 ほ か,多
く の 方 々に 御 指 導 い た だ い た。 ま た 富 山 大 学 教 養
部の 藤井 昭二 教授 には 現地 で貴 重な 御助言 をいた
だ いた 。有孔 虫 につ いては 奈良 県立 二階堂 高校 の
紺 田 功 博 士 に,珪 藻 に つ い て は 当教 室 の 伊 東 佳
彦 氏 に そ れ ぞ れ 鑑 定 して い た だ い た 。 以 上 の 方 々
に対 し心 か ら 御 礼 申 し上 げ ます。
引
用
文
献
BARRON,J. A. (1980) : Lower Miocene to
Quaternary diatom biostratigraphy
of Leg
57, off northeastern
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biostratigraphy. Proc. 1st Intern. Conf. Planktonic
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決 定 法 に つ いて の 最 近 の 問 題.堆 積 学 研 報,
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no.16,pp
鳥 居 雅 之(1984):西
南 日本 の 右 回 り回 転 運 動
瀬 戸 内 地 域 の 中 新 統 の 古 地 磁 気-日 本 地 質
- 学
会 第91回 学 術 大 会 講 演 要 旨.149p.
TSUCHI, R. and IGCP-114 National
Working
Group of Japan (1981)
: Neogene of Japan
-Its
biostratigraphy
and chronology
IGCP-114
3 p.
National
Working
Group of Japan,
PLATE I
Fig.
1.
2
Denticulopsis
hustedtii
Fig.
3, 4
Denticulopsis
praedimorpha
Fig.
5
Cuscinodiscus
yabei
Thalassionema
nitzschioides
Fig. 6
Fig.
7
Mediaria
splendida
Fig.
8
Actinocyclus
Fig.
9
Paralia
ingens
sulcata
す べ て 高 畠 累 層 最 上 部(DM-03)
Stratigraphy
and
geochronology
Toyama
Prefecture,
Yasuto
Department
University,
of
Geology
Kyoto
606,
of
the Neogene
in
Central
Japan
the
Tomari
area,
ITOH
and Mineralogy,
Japan
Faculty
of
Science,
Kyoto
ABSTRACT
The
clockwise
rotation
of
southwest
Japan
in the middle
Miocene
was
recently
suggested
by means
of paleomagnetism.
This
rotation
is considered
to be affected
by the opening
of the
Japan
Sea.
To solve
problems
of the
tectonic
evolution
of Japan
about
the
time
of
rotation
event
it
is necessary
to collect
bioand
chronostratigraphic
data
about
the Neogene
deposits
on the
Japan
Sea side.
Hokuriku
Province
is a significant
field
for
this
study
because
Neogene
marine
sediments
containing
volcanic
layers
are
distributed
here.
The Tomari
area
is placed
at
the
east
end of
the Hokuriku
Province.
The
Neogene
deposits
in the Tomari
area,
Toyama
Prefecture,
Central
Japan
are
lithologically
divided
into
eight
Formation,
namely,
the Ganzo,
Hanyu,
Sasagawa,
Sazen,
Sangogawa,
Miyazaki,
Takabatake,
Yokoo
Formations
in ascending
order.
These
are marine
in origin
and the total
thickness
of them is about
1300 meters.
The
occurrence
of planktonic
foraminifera
including
Globigerina
bulloides
suggests
that
middle
part
of
the Sasagawa
Formation
can
be
correlated
with
N.9
of
BLOW' s Zone.
The
occurrence
of
diatoms
including
Denticulopsis
praedimorpha
from
the uppermost
part
of the Takabatake
Formation
indicates
the
b subzone
of
the Denticulopsis
hustedtii
- Denticulopsis
lauta
Zone(BARRON,1980).
Taking
the occurrence
of mol lusca(ICHIMURA,
1935)
into
account,
the presence
of a large
scale
unconformity
is
inferred
between
the Takabatake
Formation
and Yokoo
Formation.
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